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──母さまを犠牲にして生まれたわたくしを、父さまは大切にしてくだすった。
わたくしは、それが暖かかった。
父さまのいなくなった世界は、寒くて寂しくて悲しくて……
結局最後まで誰とも心を通わすことは出来なかった。
生きていても
もう、わたくしには
何の意味もない。
意味のない生に、価値はない──
「さあ柘榴、アトマタスを行うんだ」
山吹がちらりと鬼灯に目をやってから、憐れむように諭した。鬼灯はどんなショーが見られるのかといった、いやらしい瞳でニヤニヤとしている。
それを憐れむ彼は綾楼国の民としては似つかわしくない、人間らしい性分をしている。それは唐松も同様だった。
「お前はもう充分苦しんだだろう? アトマタスでやり直すんだ。そうすれば今度こそ、きっと幸せになれる」
しかし、柘榴はゆっくり首を横に振ると、山吹と唐松を見据えて微笑みながら言った。
「嫌です。わたくしは、アトマタスは行いません。わたくしはきっと、生まれ変わっても同じ“もの”になります。同じものを求めて、同じ禁忌を犯すでしょう。
ならばこのまま、独りで生きてゆきます。そしてこのアトマは誰にも受け継がせません」
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