序章

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「さぁ、お引き取り下さいませ。わたくしは生ある限り、街には下りません。独りでここにおります」 ゆっくりと言葉を紡ぐ。 ひとつもこぼさないように、すべての意を感じ取って。 それはまるで、「さぁ、殺せ」そう言っているかのように。 人々は喉を唸らせ次々に怒号の声をあげた。 「それは許せぬ!」 「お前の存在は、生きているだけで脅威なのだ。捨て置くことは出来ん!」 「罪の子は死ね。我々の……、この世界のために死ぬんだ!」 それは響き渡る雷鳴のように、森を突き抜け、空を突き抜け 街を、花を、川を 虫を、獣を そして人を、震撼させた。 柘榴の細い首に、ごわついた感触が走る。 般若のような顔をした壮年の男が、両手に力を込めて柘榴の首を絞る。 柘榴はその背中をか弱いザクロの木に預け、抵抗することなく人々の想いを受け入れた。 生命力のないその木はギシギシと幾度となく軋んで、柘榴の代わりに泣いた。
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