葬送歌

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──わたくしは、夢を見る。 幸せな、夢を── 新月が朧気に闇夜に滲み、星は瞬きを忘れて天に浮かんでいる。 空を見渡すのみならば辺りに変わった様子はない。 柘榴はゆっくりと重い瞼を開けた。 著しく酸素の減少した肉体は人形のように力をなくして横たわり、手足は麻痺して何の感触もない。 モザイク越しのはっきりしない視界を、柘榴は一度閉じた。 未だに思考が戻りきらないぼんやりした頭の中は、現実を認識するよりも先に不思議な快感を味わっていた。 宙に浮いているかのような、浮遊感。手放した意識の狭間で感じる、奔放感。胸を痛めるすべて、煩わしいすべてから解き放たれたかのような、解放感。 それらは際限なく柘榴の心を癒やしては踊らせた。 夢うつつの世界から、目醒めたくはなかった。 しかし、不意に襲い来た頭痛の激しさに柘榴は思わず顔をしかめる。
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