葬送歌

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初めに目に映ったものは、柘榴を覗き込む般若の面(めん)。 それは柘榴の首を絞めていたあの壮年の男だった。今まさにその手を放し、柘榴の様子を窺おうと頭だけをこちらに残した状態のままで、男は微動だにせずに固まっている。 恐ろしく見開いた瞳、眉間に刻まれた皺、剥き出した歯茎と歪んだ口。 ありありと見て取れるその憎しみを今も浮かべたまま、男は人形のように固まっていた。 息も出来ずに、柘榴は地面を這いずった。 小さな小石や鋭い枝が手のひらに食い込んで、鈍い痛みがそこから伝わる。 だが柘榴にそんなものを気にしていられる余裕はなかった。 化け物でも見たかのような異様な心拍数。ドクンドクンと跳ね上がる心臓が内臓を潰すような、えもいえぬ苦痛。 吸うことを忘れてただただ漏れていく息が、ひゅうひゅうと夜の空気を濡らした。 男よりも少し離れたところから、ぐるりと柘榴を睨み付ける面。 面。 面。 人形。 人形。 人形の群れ。 その異質さは、形容しがたい。
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