葬送歌

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「なんなの……、なんだっていうの? どうなっているの?」 普段独り言など滅多に言わない柘榴だが、このときばかりはそうは言っていられなかった。 湧き上がる疑問と恐怖が、無意識に、無条件で、口をつく。 「どうして? どうして? どうして!?」 背に触れたザクロの木を頼りに、がくがくと震える足で立ち上がる。 そして柘榴は目をつぶり、四方を囲まれた人形の合間を縫って、一目散に駆け出した。 その時にぶつかった男から、ほのかな温かみと柔らかい皮膚の感触を感じる。 一瞬だけ振り返って、柘榴はすぐに前をみた。 走れ、走れ。逃げろ、逃げろ。 ――どこへ? 走れ、走れ。縋れ、縋れ。 ――だれに? 全速力で木々をかき分け走り抜ける。 街の明かりが徐々に近づくにつれ、僅かに安堵の思いがあふれた。 誰にもあてはないけれど、それでも誰か一人でも生きて動いている者を見れば、それでこの異様な恐怖から解放される。 そう柘榴は思った。
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