葬送歌

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だが、そんな思いもむなしく掻き消えた。 山を下り、川を渡り、街へとつながる藤の木のアーチを抜けたときから、異変には気づいていた。 それでも柘榴は、人を見るまでは……と、祈るように不安を抱えて、久しぶりの街に足を踏み入れる。 これまでは、この場所に来るたびに緊張していた。 自分を見る目の恐ろしさに怯えて、蔑まれることに怯えて、とにかく早くと用事を済ませることを急いでいた。 その柘榴が。 周囲の視線も気にせずに、街中を徘徊する。 生きている人を。 動いている人を。 自分だけが取り残されたわけじゃない、その証を求めて、あらゆるところを探し回る。 「だれか……。ねえ、誰かいませんか?」 返事はない。 「聞いてください。山吹さんと、唐松さんが……。ほかの皆さんも……」 何も動かない。 「柏おじじ様がアトマタスを行なったのです。生まれたお子様は、凛々しい少年ですよ」 何の気配もない。
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