葬送歌

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「誰か……。誰かわたくしを見てください! わたくしは柘榴です! 柘榴が街に降りてるんですよ!?」 柘榴は街に叫んだ。 輝く幻術のネオンに花火。 大通りを彩る紫の花たち。 夜の帳(とばり)など関係なく、愉快なものを追求して享楽に身をゆだねる人垣。 そのどれもが、柘榴の存在などないかのように反応を示さない。 山に置き去りにしてきた般若の面とは反対のたまらない笑顔を携えて、ここにも人形が軒を連ねていた。 藤のアーチからこぼれた紫の花びらは、空間を切り取られたかのように宙で静止している。 世界の時が、止まった――――。 「見て……。わたくしを、見て……。いつものように蔑んだ目でも、いいですから……」 柘榴の瞳を、熱いしずくが濡らしてゆく。 後から後からこみ上げては、それは頬を伝い地面までもを濡らしてゆく。 どうしてこんなことになったのか、柘榴に皆目見当はつかない。 たった一つ解ることは ――世界には、わたくしだけになってしまった。 本当に、世界で独りだけの子供になってしまった。 それだけだった。
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