葬送歌

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柘榴は途方にくれた気持ちで大通りをとぼとぼと歩いた。 空中に散りばめられたまま動きを止めている藤の花びらが、柘榴が触れた部分だけ、重力に従って音もなく地面に落ちていく。 ラベンダー色の長いウェーブの髪もくたびれた着物も、土で汚れて湿っている。 体中のいたるところが生傷におかされて、ひんやり冷たい空気に触れるとじわじわ痛んだ。 そんな痛みをいまさらながらに感じると、自分が今、生きているということが分かる。 だけれども。 すべての時が止まってしまったこの世界に独り生きていることが、本当に生きているといえるのか。 柘榴には分からなかった。 もしや、自分はあの時すでに死んでいて、これは死んだ自分が見ている夢なのではないだろうか……。 そんな思いすら頭によぎった。 よぎっては、打ち消す。 その繰り返しだ。 これが死んでなお見る夢ならば、つらすぎる。
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