序章

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恵まれた大地で自給自足を主とし、通貨を必要としないこの国の一番の特色は、なんといっても人々の娯楽である。 商店などは存在しない代わりに、そこかしこに見世物小屋が建ち並んでいて、人々は一日分の食糧さえ確保すれば、我先にとその日を楽しむ事に精を出す。 「さあぁ、今から僕はこの輪をくぐるよぉ!」 そう言って客に手のひらほどの小さなフープを見せると、彼はたちまちに頭の先から体を煙に変えて、フープをくぐり抜けた。 わぁっと歓声が上がる中、煙になって消えた彼は姿を表さない。 そしてそれを気にかける客もいない。 客たちは既に、次に壇上に上がったカード遣いに夢中だ。カード遣いの男は、カードに描かれた落書きのような花束を手のひらに写し出すと、最前列の女性客に手渡す。それが描かれていた筈のカードは真っ白に変わった。 カードから抜け出してきた、紙とも何ともとれないペラペラの花束を形どる色の塊。 女はニヤリと嫌な笑みを零した。
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