序章

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柘榴が生まれたのは、そんな街から少し外れた山の麓だった。 街を照らす白亜の壁とは対照的な、黒ずんだ土壁。傷んだ藁葺きの屋根からは、雨が降るたびに雫が滴り落ちて部屋を冷たく湿らせた。 人目を避けてひっそりと佇むその住まいで、今は亡き父と母の遺骨を抱えたまま、柘榴は質素な暮らしを営んでいた。街の人々のように享楽にふけることもなければ、友と呼べる人もいない。 たまに街へ出れば奇異の目で見られ、忌諱には触れまいとばかりに柘榴の周りからは人の波がひいた。 はぁ、と溜め息をつく。 柘榴は息をすることも忘れて、手鏡を覗き込んだ。 掘っ建て小屋同然の家屋に、継ぎ接ぎだらけの薄汚れた着物姿という装いには、些かならず不釣り合いである豪奢な鏡。 手のひらより一回りは大きい鏡面の縁には繊細な細工が施してあり、柄の根元には鏡までかかる大粒の石がはめ込まれている。
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