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柘榴はその石と、鏡に映し出された紫紺の瞳を交互に見比べた。
否。
紫紺というのは柘榴の願望であり、実際のところ彼女の瞳は毒々しい赤紫をしている。
赤みがかった褐色の石は輝きを忘れて鈍く曇っており、柘榴の生気のない瞳とよく似ていた。
「わたくしの瞳が紫だったらば、みんなはわたくしの事も愛してくれたかしら」
柘榴の呟きは静寂の空間に溶けて消えた。
だが、もしも綾楼国の民が聞いたのならば、こう答えるであろう。
『愛? 愛って、何だい?』
微笑みながら、そして心底不思議そうに。
「柘榴、おばばは君を愛しているよ。そして僕もね」
どこからともなく男が現れた。その影は現実感がないほど薄く、まやかしのように揺らめいている。
「鈴木……ありがとう。ええ、あなたもおばば様もわたくしを大切にしてくれるわね。でももう一人忘れているわ。あの方も、わたくしを愛してると仰って下さった」
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