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柘榴は“鈴木”と呼んだ男に向かうと、鏡を伏せてうっとりと微笑む。
そんな柘榴に、鈴木は色のない笑みを返した。悲しい瞳で、笑みを返した。
ガラガラガラ……
建て付けの悪い古びた扉が、軋んだ音を響かせて唐突に開かれる。
すると、ラベンダー色の艶やかな髪を風になびかせた男が、胡散臭いくらいの爽やかさを纏わせてずかずかと家に入り込んで来た。
「やあ、柘榴。元気そうだね!」
「まぁ、鬼灯(ほおずき)さん。突然ですのね。ごめんなさい、何の用意もありませんけれど、良いかしら?」
「当然さ! 君の顔が見たかっただけだもの」
くすくすと笑い合う二人の和やかな空気に、鈴木は顔をしかめた。
しかし、柘榴はちらりと鈴木に目をやっただけで気に留める様子はない。
鬼灯に至っては、まるで鈴木の存在などないかのような振る舞いだ。
だが、それもその筈。
鬼灯には鈴木の姿は目に映っていなかった。
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