樹里

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●京都白川通り● 東山方面から大きな黒い物体が、白川通りにある大手証券会社所有の大きな別荘に羽根を広げて降り立った。 小型モータ付きの翼を庭の木の陰に隠し、忍者のような装束を着た者が大胆に庭の真ん中を走り、少し高い縁側にジャンプした。着地は、音を出さず膝、手を板張りつき、衝撃音を吸収した。 ガラス戸の近接スイッチ(警報)にナイフ状の磁石を突き刺し、戸溝に油のスプレーを吹きかけた。スーとガラス戸を開けて、書院作りの床の間に掛かっている掛け軸の前に立った。掛け軸の上の人感センサーがピッと光った。男は、海外で大人気の若冲の掛け軸をくるっと丸めて背中にさした。床の間の壁に「怪盗牛若丸」と筆で書いて、音を立てず庭に走った。 別荘の照明が一斉に点灯した。周囲からパトカーのサイレンも聞こえてきだした。常駐の警備員2人が慌ててビー!ビー!と笛を鳴らして庭に走ってくる。 男は、翼を担ぎ小型プロペラを回してそのまま走りジャンプした。翼は風を受け急上昇し、新月の暗闇に消えていった。 新月の夜に京都の夜空を飛ぶ怪盗牛若丸が登場したのだ。
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