4人が本棚に入れています
本棚に追加
今、ちょうど羽田空港から離陸した飛行機が近くに見えた。
最終便だろうか。
バブル時代に購入したマンション、崩壊後いわゆるキャリアウーマンとして働き品川駅近くの高層マンションに引越した。
気付けばもうすぐ40歳。役職もあるが結婚はしていない。
だからと言って男はいる。車のディーラーで32歳。
5年前のクリスマスの夜-。
私は当時結婚を約束していた年上の彼を待っていた。今夜こそプロポーズされると思って。
ランドマークのツリーに18時。
たくさんの人々から笑みがこぼれている。
1時間遅れで現れた彼は悲しそうな顔をして俯いたままだった。
(相変わらず嘘が下手ね)
「せっかくのクリスマスなんだから…そんな顔しないで」
フラれると分かっていた。
「愛ちゃん、ごめん!俺、好きな子がいるから」
「……………」
周りを見渡すと大学生くらいの若い子がシャネルのカンボンラインのロングショルダーをして、じっとこっちを見ている。
(あんな子供に負けたんだ)
「わかった、メリークリスマス♪楽しい夜を」
精一杯言った言葉。私と色違いのバッグ。私は彼と銀座に行って黒いトートを買って貰ったのに。どれくらい立ちすくんでいたのか。彼の為に買ったエルメスの限定ネクタイを捨てようかって、ぼーっとしていた。
「すみません、あの待ち合わせですか?」
今の彼だった。
「クリスマスにフラれるなんて最悪でしょ」
「あの…私こういう者で、私も彼女にフラれたんです」
名刺には手書きで携帯電話まで書いてあった。
「20時にレストラン予約済みなんですけど、個室だからまだ大丈夫なので一緒にディナーいかがですか?」
そういえばお腹空いてる。
「いいわよ」
とても爽やかで営業マンらしく話も楽しい。帰りはベンツのワゴンで送ってくれた。
「これ、今日のお礼。でも捨てても構わないから」
「ありがとう。よかったら僕と付き合いませんか?」
唐突な言葉だったが素直に受け止める自分がいた。
「そうね、これも縁かな」
毎年クリスマスにはネクタイを贈る。結婚はもう焦っていない。彼の存在-、一生こんな素敵な時間を共有できるパートナーでいられたら、と思う。
だから明日も明後日もまだまだ頑張れると、今の私はすてたもんじゃない!
fin
最初のコメントを投稿しよう!