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悦徳は何も言わない。けれど、優しく小さく微笑んだ。
まるで“元気出せ”と言ってくれているような気がした――
「……ありがとう」
また、涙があふれる。胸が熱い。それを隠すように歩花は俯き笑った。一貴はその様子を黙って見ている。
しばらくすると悦徳は歩花の頭から手を離し、一貴に視線を向ける。
「じゃあな」
「うん……悦徳、今日は……悪かったな」
申し訳なさそうに笑う一貴。
「お前が謝んな。何かよくわかんねぇけど、お前も無理すんなよ。じゃあな」
背を向け歩き出す悦徳を、歩花は見つめた。
悦徳だけは今日の出来事の意味――歩花の気持ち、わかっていないのだろうか。もしわかっていないのだとしたら、この気持ちはこのまま知られてほしくない。
きっと知らない方が、悦徳は幸せだろうから――。
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