1404人が本棚に入れています
本棚に追加
その時やっと、歩花は「またね」と口を開くことができた。
潤未からの返事は、「うん」だけ。笑ってもいなくて、怒ってもいなくて、無表情だった。
その次の駅で、歩花達も降りる。
電車から駅のホームに一歩出た瞬間、やっと人々のにぎやかな声が耳に入ってきたような気がした。
笑っている学生達の声。早足で歩きながら携帯で話しているサラリーマン。駅のアナウンス。歩く足音――
それらを認識したのと同時に、緊張の糸がほどけたように、歩花の目から一筋の涙がこぼれた。
――けれどそれが前を歩いている悦徳と一貴に見えないよう、すぐに拭った。
さっき潤未に「またね」とあいさつしたが……明日学校で会った時、普通に接することができるだろうか。逆に潤未は普通に接してくれるのだろうか。
最初のコメントを投稿しよう!