21人が本棚に入れています
本棚に追加
「どうしたんだよ、急に」
トキワの心境の変化は有難かったが、何がそうさせたのかが不可解だった。
だって、丸三年。
言い続けてダメだったことが、急に覆されたのだ。
疑問にも思う。
「別に、入学祝いだよ」
トキワは、そう言って笑った。
だけど、僕にはわかった。
これは嘘だ。
いつもはなんでもない嘘をぽんぽん吐くくせに、重要なことは嘘を吐けない。
この三年で、それくらいのことは理解していた。
「嘘だろ」
「はは、そう」
あっさり認めやがった。
何も言わず、トキワの次の言葉を待っていると、奴は諦めたように肩を竦めてこう言った。
「あいつはいつか誰かと幸せになって、どっか行っちまうかもしれない。
だけど俺はそんなの耐えらんねーから、俺が選んだ男に渡して…俺の庭で飼い殺すんだ」
トキワの瞳が、不意に色を深くし、奥でギラリと光った。
初めて見るその色に、僕は唖然とした。
僕が初めて触れる、狂気だったからだ。
「え…」
やっと絞り出した声は掠れて、首筋を汗が伝った。
「そんな顔すんなよ」
緊張を解いて、トキワが笑った。
僕は少しホッとして、息を吐いた。
「に、庭って…?」
「庭だよ。
俺の知ってる、俺を裏切らない庭。
ミクロを絶対逃がしたりしない、優秀な庭」
トキワは煙草を咥え、火をつけた。
口調は軽いが、冗談で言ってるわけじゃないのがわかる。
僕は生唾を飲み込んだ。
僕はとっくに知っていた。
トキワもミクロちゃんを愛してるってこと。
それに気付かないふりをして、散々会わせろと言ってきた。
でも、それに罪悪感などは感じない。
僕だって真剣に彼女に恋してる。
だけど、こんな狂気じみた愛なんて。
僕は、トキワを怖いと思った。
最初のコメントを投稿しよう!