恋をする、君の瞳に恋をした

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祝日を返上しての、校外研修。 美術科と被服科の生徒はデザインフェスタを見に行くことになった。 コンサートをやるような大きな会場が、それぞれ畳二畳ほどのブースに区切られ、プロからアマ、様々なデザイナーが思い思いの展示をしている。 現地集合、現地解散ということで、トキワと僕は二人で各ブースを観て回っていた。 ダンボールで作られたドレスを飾るブース、フェルトで作った動物のキーホルダーを販売しているブース。 その中に、壁いっぱいに真っ白な紙が貼り付けられたブースがあった。 トキワは、「あった、あった」と嬉しそうにそこで立ち止まる。 「なんだ、これ?何も描いてない紙だけじゃないか」 僕は立ち止まるほどの価値を見出せず、トキワの隣で首を傾げた。 「まぁ、見てろって」 トキワはニコニコと楽しそうに、腕を組んで、その紙を見つめる。 僕も首を傾げたままで、その隣に突っ立っていた。 やがて、台車の近付くガタガタという音が近づいてきた。 ふと、そちらの方を見ると か細い女の子が一人、ペンキや絵の具がたくさん乗った重そうな台車を押していた。 台車はおもむろにブースの中に入り、女の子は、何事かと立ち止まった観客に向かって一つ礼をした。 頭を上げ、観客を見回す。 彼女の目はトキワを捉えて、ホッとしたような、動揺しているような、複雑な色を映した。 「始まるぞ」 トキワが言い、僕は「えっ?」と言ってトキワを見た。 その目は、真剣そのものだった。 そして僕は、観客のどよめきにハッと我に還り、ブースへと目を向けた。
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