序章

2/3
553人が本棚に入れています
本棚に追加
/59ページ
一室の部屋で、声を潜め話す2人の男。 「…100万円払うので、どうか見逃してくれませんか…」 肩を竦め腰の低い様子の男は、深々と頭を下げ、ちろりと初老男性の顔色を窺う。 「100万では足らん! 1000万だ!」 「いっ1000万!?」 初老の言葉に、男は顔を青ざめた。 「バラされても…いいのか?」 ドス効いた男の声に、男は渋々首を縦に振った。 ――― その様子を少し離れた屋上で、眺めている女がいた。 「あの人ですか…」 真夏の炎天下、女のか細い声は蝉の声によってかき消された。 懐から一枚の紙を出す。 写真には、先程の初老男性の顔があった。 深く刻まれた眉間の皺。 白髪混じりの髪。 鋭い眼光。 政治業界の裏側を牛耳る、金に飢えた男。彼に恨み持つ者も、数十人といる。 チャキ…… 彼女は小振りのピストルを出し、構えた。 …狙うは、心臓ですね。 狙いを定めると、何の躊躇いもなく引き金を引いた。 パァーンッ 銃口から飛び出た鉛は、窓ガラスを突き破り、導かれるように男の左胸へと潜っていった。
/59ページ

最初のコメントを投稿しよう!