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私が彼女に出逢ったのは、船長である叔父が何年かぶりに航海から帰ってきた時。
父と母と共に、叔父が帰ってきた時いつもそうであったように、予定の時間よりも少し早めに港に行って、見慣れたあの船を待った。
チャントウ号というその船は、叔父の父が自分の名前をそのままつけたと聞く。
港についてから数分後、張東と書かれた船がだんだん近づいてきた。
私は潮の匂いを嗅ぎながら、今か今かと船が着船するのを待ちわびる。
実の父と母よりも、私は何故か昔から叔父に懐いていて、大人と呼ばれる年齢になった今でさえも、叔父を尊敬の念を抱いて見つめることは変わらなかった。
私はあの、叔父の中にある水夫特有の大らかさと寛容さがとても好きだ。
叔父に対して、盲信とも言うべき信頼感を持っていると言っても間違いではない。
だから叔父が、明らかに毛色の違う少女の手を握って船から下りて来た時でさえ、私は父や母のように大袈裟に驚いて見せることはなかった。
そして驚くよりも先に、私はその少女に興味を惹かれたのだ。
叔父はいつもの朗らかだけれでも力強く歯を見せて私と両親に笑いかけ、少しの挨拶をしてから異国の言葉で手の先の少女に話しかける。
促されるままにマリーアと名乗った少女は、少しではあるが笑みを浮かべた。
彼女の母国であるイスパニアという西洋の国ではリーのように伸ばす発音はないのだが、その変わりにマリアのリの音を他の音に比べて強く発音するものだったから、私にはリーと伸ばしているように聞こえた。
その所為か私の名前である張李が言い辛いらしく、この先彼女はずっと私のことをたどたどしくチャンリと呼ぶことになる。
「エンカンターダ」
彼女は名乗った後に続けてそう言いスカートの端を持って軽く頭を傾けさせるのだが、イスパニア語を解さない私にはその言葉の意味を理解することが出来ず、後になってそれがはじめましてと同じ意味だということを知った。
彼女が何を言おうと私や両親には意味が分からない。
だから私たちは彼女を、とても不躾な視線を向けていたことだろう。
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