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数度のノックの後に、聞こえてきた声。少し高めで女の子のような声だが、それが自分と同じぐらいの年頃の男の子のものであることを知っている。
もうそんな時間になったのかと、時計を見ようと視線を向ける。自分が思っていた時刻よりも、ずっと先に針は進んでいた。いつもゆっくり進むのに、こんな時ばかり早く動く。なんて時計だとほとんど八つ当たりである言葉を口の中だけで呟いてから、家を出る時に父から貰ったショートソードを手に取った。
今日は外での仕事の日。平和な街での、簡単な警備のお仕事。
「今行くよ、イル」
扉を開けると、イルが私を待っていた。村ではいつも時間がゆっくりと流れていた。とても、とても、ゆっくりと流れていた。此処とは違う、とても穏やかな時間。だけど私はそこを選ばずに、この街を選んだ。時々寂しく思うけれど、それで頭がいっぱいになることは今までなかった。
「遅い!待ち合わせ場所に来ないからどうしたかと思ったじゃんか」
「ごめんごめん。都会の時間は意地悪だねー」
「そういう問題じゃないだろ!」
だって、こんなにも毎日幸せなんだから。
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