00: 所以無きプロローグ

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―本庄ビル8F― ここらに住んでいるものなら誰もが見知のある廃ビルだ。 8階から外界を眺めても辺りに灯火と呼べるものはない。 それもそのはず、町から外れた所にポツンとある古びたビルなのだから。 テナントを出しても立地が悪いせいか、誰も買い取り手がつかない。 近所の小学校に通う児童のほとんどは、そのビルをオバケビルと呼んで近付くこともない。 小学生だけじゃない。 そのビルでは昔、心中自殺があったとか、夜な夜な報われない戦時中の幽霊が彷徨うだとか、あることないことの噂話が一人歩きし、誰もが恐れる場所になっていた。 ただどれも立証のできないデマ話ばかりだった。 一応は調べてはみたが、過去にそんな事件や目撃例は一度としてなかった。 立地どうこうではなく、そっちの方が理由としては妥当かもしれない。 そんな場所に会社を立ち上げるような冒険者などなかなかいないはずだ。 …というか、イメージを重視する会社というコミュニティーが自らイメージを壊すワケがない。 だから、この場所に来る人間など唯一人としていない。 誰もがこの場所の本質である建物という概念を忘れた。 そして忘れ去られた。 そこはまさに漆黒の闇に溶けてしまいそうなほどの終末の場所だった。 それを余計に感じさせるのは、恐らく目の前にとどまらず発光し続ける物体が在るせいだ。 その発光が一段と外と室内の闇を強調させ、どす黒さを増幅しているのだ。 ただ一つ、CPUが高度なノートPCがそこにある。 そしてそのPCの明かりは真っ暗な闇夜を照らす満月のように、この世界にいる唯一の人間である俺を照らしていた。
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