00: 所以無きプロローグ

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あれは…… メシア ルイ 芽幸涙…? 隣のクラスの温和しく、無口な生徒。 ………? それがどうだ… 遠目からでも分かる。 彼女は…僕の方を見ていた。 それは間違っても好意的な視線ではない。 敵意を向けた…いや、殺意すら感じるほどに、見るものを凍りつかせるような冷静な視線だった。 正直近い距離での会話は遠慮したかった。 だから彼女から距離を取るような形で、5メートルほど前で自転車を止めた。 立ち往生しているように道の真ん中に立つ彼女の横を通り抜けることが、本能的に難しいと感じたからだ。 「おはよう。 芽幸さん!こんな朝早くから登校なんて… 朝練でもあるの?」 自分でも驚くほど、明るい口調で爽やかな言葉が出てきた。 「部活じゃないわ。あなたに…用があるの。」 彼女は翡翠色の瞳をまばたき一つせず、そう言った。 彼女が何らかの用事が僕に対してあることは初見から薄々感じていた。 何らかの用事というのはおそらく僕がこれからしようとしている事に関わっているに違いない。 ならば…僕の今すべきことはどのようにしてこの場を回避すべきか…だ。 「…すまない、ちょっと急いでいるんだ。 用事なら後から学校で聞く…ってのはダメかな?」 その問いに対して、彼女は無言で直視を続ける。 その瞳に迷いはなく、それがそのまま答えとして受け取れた。 ちぇっ、やっぱりごまかせる感じじゃないな… 監査役… いや、同業者の可能性も棄てがたいな… まさか、こんなに近くに爆弾が潜んでいるとはな… しかもピンポイントで今日って事は… だいぶ長い間泳がされてたんだな…俺… さて、どうする? たかが女の子一人、こっちは自転車、逃げるのはわけないが… 「その表情から推察するに…私の申したいことはわかりますね?…  イレヴン "11の遣徒"…」 イレヴン… その言葉を聞いた瞬間、俺は全ての終わりを悟った。 と、同時に全ての現状を理解した。 認めたくない現実はただ静かに冷たい瞳のまま、僕が発する次の言葉を待っていた。
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