00: 所以無きプロローグ

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******************* 芽幸涙は少年を無理矢理に乗せた車を見えなくなるまで目で追っていた。 ふと、背後に気配を感じ振り返ると、白髪の恰幅の良い男性が立っていた。 「…行ったか」 「…来ていらしたんですか。七簾様」 男はいかにも ・・・ その手の人間というような風貌だった。 その男の言葉に対し芽幸涙は少なからず敬意を含ませ答えた。 「この件に関しては…私にも責任があるからな。 蛇の道は…ヘビだ。 息子が迷惑を掛けた…。」 「……。」 「涙、お前は…恨んでいるか? …この私を…」 「今は、分かりません。 もうだいぶ昔の事ですから。」 「そうか…。」 七簾と呼ばれた男は空を見上げ、少しだけ寂しそうに笑った。 僅かに二人の間に沈黙が流れたが、その沈黙を破るかの如く七簾は口を開いた。 「それじゃあ、私はそろそろ行くよ。」 「はい、道中お気をつけ下さい。…七簾様」 サングラスを掛けた男二人は芽幸涙に一瞥し、車のドアを開け、七簾を乗車させた。 「失礼致します。涙様」 「…えぇ。」 男を乗せた車は走り出した。 その車の行く末を芽幸涙は見えなくなるまでずっと見つめていた。 恨み… 七簾はおそらく嘘をついたとでも思ったのだろう。 確かに七簾の家に初めて来た時、私は殺したい程彼を恨んでいた。 だが、今はどうだろう…。 復讐するため彼の下に就いたというのに。 『彼ヲ…七簾ヲ許スノカ?…ルイ…』 「…そんなワケない…酒喰鬼…。そんなワケないの。」 芽幸涙にしか聞こえない声に芽幸涙は言い返す。 でもそれは、端から見れば自分に言い聞かせているような… 納得させているような… 独り言のようにも見えていた。
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