愁傷

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 そんな風に自己嫌悪をしていると、なんだか無性にタバコが吸いたくなってしまった。僕はベッドから降りるとタバコとオイルライター、そして灰皿を手にし、色々な物を踏みつけながらもベランダへと向かう。タバコを吸い始めてから二年たったけれど、もはや完璧な中毒者になってしまったようだ。こんな日のこんな夜にはなおさら吸いたくなってくる、と言うのも多分、おそらく、きっと、中毒がもたらした感覚なんだろう。そう勝手に思う事にする。  ****  カーテンを開け、窓を開けると冷たい風が僕を抱擁するかのように吹き込んできた。今は三月上旬。季節で言えばもう春なのだけれども冬の名残がまだまだそこには残っていた。寝巻き代わりのジャージだけではまだ肌寒い。そして僕の部屋はマンションの十一階。高くなれば高くなるほど必然的に風は強くなってくると言うのを僕は身をもって体感していた。  寒さと強さが混ざり溶け合った風を全身に浴びて少し身震いをする。何か上に羽織ろうか、とも考えたが止める事にした。タバコを吸ったら直ぐに寝るだろう。そう思ったからだ。  僕は窓枠に寄り掛かりながら腰を下ろす。そして、外の風景を瞳に入れた。ベランダから見える街は真夜中にもかかわらず星のように輝いている。いや、まるで満天の夜空をそのまま地上に映したかの様だ。  その星のような街灯は、数えるのが嫌になる位沢山あり、一つ一つ、しっかりとした輝きを持っている。それは人が創り出した暖かくも軟らかくも無い、無機質な光、無意義の幻想。その光景は誰でも創り出すことが出来る安っぽく薄っぺらいモノ。 だけれども何故だか僕の瞳には、とても、とても素晴らしいモノに見えた。  ――見て見て! 凄く綺麗だよ!
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