愁傷

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 カチリ、とオイルライターの火を灯す。そしてタバコに火を点ける。小さな火種が暗闇の中で微かに瞬き、辺りを静かに照らしだす。ああ。初めてこのオイルライターに火を灯した時よりも勢いが衰えているな。前はもっと明るかったのを覚えている。何ヶ月も経っているから当たり前の事なんだろうけど、今の今まで気付いていなかった。と言うよりも気にしていなかっただけかも知れない。おそらく今日、こうやって火を点けなかったら点かなくなるまで何とも思うことは無かっただろう。 くだらない事を思いながら、ゆっくりとタバコを吸い、ゆっくりと燻らす。吐き出された紫煙は風に煽られ散り散りに消えていく。その後には何の欠片も残ってはいない。それはまるで、存在を根こそぎ奪われてしまったかのようだった。  吸っては吐く。そんな行為を繰り返し、ぼんやりと吐き出された煙の行く末を眺めた。  なんて、脆い。  ――タバコは体に悪いんだよっ。
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