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「ごちそうさまでしたー」
ひんやりと冷たい北風が鍋をおいしくさせる夜。とあるマンションの一室で僕はその鍋を前に手をすり寄せていた。
「よく食べてたわよねえ、そんなにお腹減ってた?」
「んまぁ……。すっげえ美味かった」
「そう言ってくれると嬉しいわぁ~、作りがいもあるし。ねえカナちゃん?」
「えっ?あ、そ、そうね……」
お腹をさすりながら、未だ余熱で湯気を立ち上らせる鍋を見つめ続ける。
因みに今日はきりたんぽ鍋。
「これからどうするんです? もう少しここにいるんですか?」
「いや、このお茶でも飲んだらすぐに帰る」
「あら、遠慮することないのよ? わたし、明日久し振りにお仕事休みだから今晩ずっといずみくんの相手してあげられるよ?」
「お、お母さん何言ってるのよッ!」
「はははっ」
一見姉妹のような親子の対話を眺めながら僕はグラスに注がれたお茶を口に放り投げる。口の中で咀嚼するように弄んで、最後に喉の奥へ流し込んだ。
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