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「こんにちはー小鳥ちゃん!」
明るい一声が聞こえて、私は読んでいた本から顔をあげた。
この地球屋というお店に足取り軽く入ってきたのは…人の良さそうな、小太りのおじさんだった。
「長谷川さんっ!」
「おーおー久しぶりだねぇ小鳥ちゃん。
いや、またたまげたもんだ。こんなに大きくなって……」
長谷川さんは、かぶっていた帽子を脱ぐと、店内をぐるりと見渡した。
「ここは…いつ来ても変わらないねぇ」
おじさんが顔をくしゃくしゃにして笑った。
私はいつも、そんな長谷川さんの笑顔が好きだった。
「………えぇ。あの時から変えていないんです。
物の配置も、作るものも……」
長谷川さんは目を見開き、それから私の頭を撫でた。
「マスターは……」
言い終わらないうちに、私の顔の曇りに長谷川さんが気づいた。
私は無言で頷いた。長谷川さんは慰めるように、ぽんと私の頭に手を置いた。
ほんの少し。泣きそうになった。
長谷川さんは私の髪を両手でぐしゃぐしゃにすると、
「小鳥ちゃん、いつもの頂戴な」
いつもの…あの懐かしい変わらない笑顔が私を照らした。
「はいっ!ただいま!」
この地球屋は不思議なお店だ。
本屋でも雑貨屋でも、カフェでもない。
でも、その全てでもある。
漆喰に塗られた木造の店内。吹き抜けのシャンデリア。
店の柱にはランプが吊され、淡いオレンジの光を発している。
地球屋に入ってすぐ右に、大きな地球儀が置いてあり、
マスターと私が選んだオススメのファンタジーな本が並んでいる。
左手には、やはりマスターと私が選んだ雑貨……レターセットやポストカード、
それからキャンドルやお風呂グッズ、ボディーバターや、小瓶に詰められた香水などが置かれ、
すぐそばにレジ台がある。
レジ台の奥はキッチンで、キッチンのすぐそばに二階へ続く階段がある。
二階は、かつて住んでいたマスターの部屋で。
今は私がそこに移り住んでいた。
そして、レジ台の右手を通り過ぎると、奥には店内と同じ漆喰で塗られた木のテーブルと椅子があり、そこがカフェになっている。
私はいつもの長谷川さんのお気に入り。
ベイクドチーズケーキと、濃い目のアールグレイにミルクをたっぷり持って、
長谷川の座るテーブルに持っていった。
「ありがとう。懐かしいなぁ……」
長谷川さんがしみじみと呟いた。
「キャンドルサービスです。
今日は久しぶりの再会ですので………」
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