拝啓。親愛なるマスター

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そう言って、私は茶色の四角いキャンドル入れをテーブルに置いた。 そして、控えめな甘さの匂いのキャンドルを置き、マッチで火を灯す。 「‘再会の喜び’です」 それから、ちょっと私は照れて笑った。 「駄目ですね……私はやっぱりマスターみたいなネーミングセンスがないみたい」 長谷川さんは、アールグレイにミルクをたっぷり入れながら、 「いいや……素敵だよ。 君はやっぱり魔法使いの弟子だったんだな」 そう言って、カップに口をつけた。 ベージュ色のカップに、淡い茶色がだいだい模様で描かれた静かなカップ。 「知ってらしたんですか」 マスターの秘密。 「僕はマスターに恋をしていたからね」 私は笑った。 「マスターは全然気づいていませんでしたけどね!」 「ああ、あの鈍感さには参ったよ……」 ひとしきり笑った後、長谷川さんが私を椅子に座るよう促した。 「この一年……地球屋に足を運べなくて悪かったね」 「いいえ。お仕事だったんですもの」 「君は……成長したな。 初めて会った時、まだ小学生だったか?」 「小学校6年でした。丁度この地球屋に転がり込んだばっかりで」 そうそう思い出した。長谷川さんはチーズケーキを口に運んだ。 「そうだ。君は僕を怖がって逃げてしまった」 「あれは違うんです! 私、マスター以外の人とお話が出来なかっただけなんです」 「でも、少しずつ心を開いてくれたね。 あのクリスマスのパーティーは本当に楽しかった」 「えぇ、長谷川さんのまさかの腹踊り」 長谷川さんは懐かしむ目をして、私を見ている。 「ここには素敵な思い出が詰まっているな」 「……えぇ。本当に、数え切れないほど」 胸がいっぱいで、眠れなくなるほど。 「私で良ければ、君の思い出話を聞こうか?」 「いいんですか?」 「もちろん。君には話す相手が必要だろう?」 長谷川さんの優しさが、何よりも嬉しかった。
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