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住宅街の中でも特に閑静な一帯に来ると、少年はズザーッと靴裏でブレーキをかけた。よくそうしているのか、運動靴の底は大分擦り減っている。少年は大きく息をついて、短い髪――染めているのか明るい橙色だ――についたほこりを軽く払うと、おもむろに目の前の塀に向かって跳んだ。
目測でも少年より高い、二メートルほどの塀である。普通ならそこまで跳べないが、しかし少年は助走もなしに軽々と塀の上に着地した。同じように塀よりも高い木々を飛び越え、敷地内に難なく進入する。
純和風の庭園を走り抜け、乱暴に靴を脱いで縁側に上がる。迷う事なく階段を上がり、障子をパンッ!と開いた。
「託志(たくし)! 戦が開かれるって聞いたか!?」
託志と呼ばれた部屋の主は、畳にうつぶせになっていた。顔だけを少年に向ける。
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