第一章

8/8
前へ
/328ページ
次へ
呆然と立ち尽くしていたリオンは、暫くの後、ゆっくりと部屋を見回した。 「これ、寝室?」 部屋の角に堂々と鎮座しているキングサイズのベッドに、それでも狭いと思わせない部屋。 ベッドの横には大きめの勉強机、さらに壁に寄り添って立つ本棚。 ベッドの反対側の壁に、収納力抜群のクローゼット。 床には美麗な刺繍が施された絨毯に、天井にはシャンデリアとまでいかないものの、十分に豪華な室内灯。 「お金、使いすぎ…」 最早呆れの見える表情を浮かべ、リオンは荷物を床に置く。 次いで、リオンは荷物の中から、ケースに入ったハープを取り出した。 「これは、大切な物だからね…」 まるで愛おしいものを見るように、リオンはハープの支柱を撫でた。 10歳の誕生日の為に、父がこっそり作ってくれていた誕生日プレゼント。 その数日後に、魔物に襲われた村は…、地図から消えた。 リオンも深い傷を負い、今も消えずに背中に残っている。 いつも、眼裏に浮かぶ。 自分を庇って傷を負った、ジルの姿。 『俺はどうせ死ぬ。だから、お前に俺からのプレゼントだ』 そう言って、己の残った魔力を、リオン流し込んだジル。 『お前が弾くハープを、また聞きたかったよ。 今までありがとう、リオン』 意識を失った体から出た、白い光を放つ魔方陣で、何処かに消えたジル。 リオンはジルが死んだから、身体が元の世界に返されたのだろうと考えている。 「僕が…、弱かったから…」 きつく、拳を作って唇を噛んだ。
/328ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1741人が本棚に入れています
本棚に追加