それはある日、突然に。

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*** 「………もうニ時だよ!お姉ちゃん!お姉ちゃん!!」 「………………へ、あ、あれ…?もうそんな時間……?」 体を揺さぶられ何度目かの名を呼ぶ声に、瀬名はようやく目を覚ました。 重い体をゆっくり起こし目をこすり、あちこちに跳ねた髪を手櫛で整える。 「今日どっか行くって言ってなかった?」 「ん…起こしてくれてありがとう、沙那(さな)」 「ほんっと、いつまで寝続けるのかと思った。 ずっと床にうつ伏せになってるしさ。生きてんのか確かめちゃった」 そう独り言のように愚痴を溢し、ポニーテールにした長い髪をなびかせたのは―――北川 沙那、瀬名より一つ年下の実の妹だ。 少々辛口な勝ち気美人といった風だが姉思いな彼女。 共に実家を離れ一緒にアパートに暮らし始めて、一年が経過したばかりだ。 瀬名が足元に転がる携帯電話を開くと、ディスプレイには "14:05" の文字。 視界はリビングで、しかも自分は部屋着用のジャージを着たまま。 DVDを観ながらいつの間にか眠りに就いてしまったのだ、と瀬名は悟り両腕を天に伸ばした。 (……うーん、気付いたら近所の朝刊配達のバイクの音が聞こえて、そろそろ寝なきゃとは思ったんだけど…。 布団に入ってないって事はそのまま眠っちゃったんだ。 もうニ時かぁ。貴重な時間が…) 寝てたのは自分の責任なのに、何だか損をしたような勿体無い事をしてしまったような気になる。 今日は夜七時からだと、昨晩保志沢からメールがあった。 (DVDの続きを観るのもいいし、久しぶりに絵でも描こうかな) あるいは漫画か、ゲームか。インドアな瀬名が用意するのは大抵この選択肢だ。 「その前にご飯食べよ」 瀬名がキッチンに向かおうと立ち上がった瞬間、 ―――ピンポーン 玄関のチャイムが耳に届いた。
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