それはある日、突然に。

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「私出るね」 立ち上がったついでだし、と瀬名は真っ直ぐ玄関へ向かう。 (この間注文した本かも) 数日前にネットでデザイン系の書籍を購入して、配達日を今日に指定している。 近所に専門書を扱っている本屋がない為ネットショップはよく利用しており、ゲームソフトやファンブック的な本も度々ネット経由で手に入れている。 (寝起きだけど、まぁいっか) インターホンがあるにもかかわらず、モニターは素通りして玄関のドアノブに手を掛けた瀬名。 宅配便だと真っ向から信じ込み、何の躊躇もなく扉を開けた―――。 「こんにちは。突然お伺いしてすみません」 扉の先には、スラリと長身のスーツ姿の若い男性。 瀬名よりかは幾分か年上、二十代半ばから後半くらいであろうか。 柔らかな茶色い髪にグレーがかったスーツ、淡い柄の入ったブルーのネクタイ。 150cmの自分と30cmは身長差がありそうな男性を見上げる。 宅配業者とはまるで違う風貌に走る戸惑い。 (―――あれ、宅配の人じゃなかった。 ていうか何かの勧誘っぽい。断らなきゃ…) 目の前の男性は、左手に大きめのビジネスバッグ、右手に何枚かのチラシやパンフレットを抱えている。 営業マンだという事は一目瞭然だ。 「今この辺りでマイホームを考えていらっしゃるお宅にご挨拶に伺ってます」 半分空いた扉から、営業スマイルを浮かべ話し始める。 「……お家の方はいらっしゃいますか?」 若干の躊躇いはあったものの、童顔な瀬名は営業するに値しない未成年者だと判断されたようだ。 「…あの、家は興味ないです」
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