それはある日、突然に。

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勧誘系は苦手だ。 相手は仕事なのだから下手に期待させるよりもハッキリと断るのが最善な方法だと分かっているが、なかなか強気に出られない。 さすがに契約まではしないがいつも上手くあしらえず、延々説明を聞きチラシやパンフレットまで受け取ってしまう。 都度沙那から注意され、いい加減その教訓を活かさねばとは思っているのだが。 「…えっと、そういう予定とか、何もないんで…」 もう一度、たどたどしくもやんわり断る。これが精一杯だ。 「だから、お引き取りを…」 「……」 返答がいっこうにない。 まるで時が止まってしまったかのように微動だにしない。 (何で固まってるんだろこの人…) お互いその場を離れずに、暫しの沈黙が流れた。 「という訳で!すみません!」 沈黙を破った瀬名が勇気を出して扉を閉めようとした。 が、突然の男性の声が彼女の動きを遮った。 「待って! 仕事とか関係なく、話がしたいんだ!」 (…………? え…? 仕事じゃなくてって…どういう事……?) 頭の中が疑問符だらけだ。 あまりにも突然の台詞に、ドアノブにかけた手も思わず固まってしまう。 「…ごめん、驚かせちゃって。 その…何て言うか、興味があるっていうか、仕事の事はもうどうでも良くなったっていうか…」 男性は言いにくそうに言葉を濁す。 暫し経て、意を決したように俯いた顔を上げて瀬名をじっと見つめた。 「一目惚れなんだ」 (……はい…?!)
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