それはある日、突然に。

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さすがの瀬名も、ストレートすぎる言葉に瞬時に理解できた。 まるで漫画のような出来事が自分の身に起きている。 (……っ、本気…?営業さんってこんな冗談まで言うのかな…) 男性は瀬名をまっすぐ見据える。 真剣な眼差しに目が逸らせない。 「だから、良かったらご飯とか一緒にどう?」 「えぇっ!! いっ今からはダメです!私まだ顔洗ってませんから!」 「……」 「…あ、いえ…顔洗ったらいいかっていうとそれも違うんですけど…」 「…………ぷっ、あはははは!」 (わ、笑われた!) ツボに入ったのか、男性はお腹に手を当て笑い続けている。 「あはははは…君、面白い事言うね」 動揺で方向違いな断り方をしてしまった上に、図らずも真っ昼間にもかかわらず寝起きだという事を暴露してしまった。 あえて付け加えるなら、顔を洗ってないどころか髪の毛はボサボサなうえにジャージ姿なのだが。 (なんか馬鹿にされてる? そりゃ私も思わず変な事言っちゃったけど…やっぱりからかってるの?) 不満げな表情の瀬名に気付き、男性は慌てて姿勢を正した。 「ごめん。ご飯は今からじゃなくて暇な時にでも、良かったら」 男性は弁解すると、スーツの内ポケットから名刺入れを取り出す。 瀬名の前に一枚差し出し、最下段に書かれたメールアドレスを指し示した。 「ここに連絡してくれたら嬉しい。いつでもいいから」 「え…」 名刺を受け取っていいものか困惑してしまう。 時間にして実際はほんの二、三秒の経過であっただろうが、随分長い間悩んでいるような感覚を覚える。
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