それはある日、突然に。

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「あのーすいません、北川さんのお宅ですか?お届け物ですがー…」 言い難そうに若い女性の声が間に入った。 玄関よりやや後方で宅配業者の服装で立っている。 今度こそ注文していた本のようだ。 「それじゃ、これで。連絡楽しみにしてるから」 名刺を押し付けると、男性は背を向けて足早に去っていく。 瀬名は声を掛けることも出来ず、男性の後ろ姿を見送った。 「ご苦労様です」 サインをして荷物を受け取る。 (……何だったんだろう…) 頭がぼーっとする。 こんな経験は瀬名にとって初めてだ。 今まで告白の経験はする方もされる方もなかったし、恋愛感情すら抱いた事もなかった。 そもそも恋愛自体への興味が皆無、とも言える。 漫画やアニメ、ゲームの時間、仕事の時間が心地良かったし、それで日々充実感を得ていた。 そんな人生を送ってきたから、急に「一目惚れだ」と言われても思考が追い付かない。 第一、今の格好といったら誰がどう客観的に見ても酷い。 髪はボサボサのジャージ姿。起きたなりで顔すら洗ってない有り様。 (そんな姿で人前に出てたなんて…) 一体どこに惚れる要素があったのか見当もつかない。 大して会話もしていなかった筈だ。 (冗談だよね…) でも、真剣な目をしていた。 (あんな顔してたけど、軽々しく誰にでもああ言ってるのかな…営業…?) 信用していいのだろうか。 思考回路が正常運転でない今の自分には判断出来ない。
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