それはある日、突然に。

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手中の名刺を見やれば左上には会社のロゴマーク、そして中央には 『イズミ建設 株式会社 営業主任 水上鷹洋』 その下段にはローマ字で名前が綴られている。 (みなかみ、たかひろ…イズミ建設ってどこかで聞いたような…) 「何そんなとこで荷物持ったままつっ立ってんの」 なかなか戻ってこない姉を不思議に思い、沙那は玄関まで来て尋ねた。 「長かったじゃん」 どこまで聞いていたのだろうか。 あんなシーン、実の妹に見られていたらと思うと何だか恥ずかしい。 「世間話好きな配達の人だったんだね」 「…あ、うん」 沙那は最初から配達員と喋っていたと認識しているのだろうか。 実は、と訂正しようにもどこから切り出すべきか。 秘密にしておいた方がいいのでは、と瀬名は瞬時に思った。 打ち明けるのが恥ずかしいからなのか、言ったところで馬鹿にされるからなのか、明確な理由の自覚は無かったが。 「お姉ちゃんの荷物?」 「うん、Webレイアウト帳とフォトショップ辞典」 「いいね。私にも見せてよ」 届いた本をダンボールごと沙那に手渡す。 先程の出来事を胸にしまう方が賢明だと感じた瀬名は、すぐさま名刺をズボンのポケットに入れリビングへ向かうのだった。
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