プロローグ

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3月31日。 今日をもって彼女はようやく二十歳(ハタチ)となる。 学生であった時分は学年の中ではほぼ最後に等しかった誕生日だ。 そして、明後日からは社会人として新たな一歩を踏み出す。 ただ、法律的に認められる事も多々あるが、成人したからといって何かが劇的に変化するとは言い難い。 二十歳を境に、さぁやろうと一念発起するのは新成人の中でも極僅かではないだろうか。 彼女もそう思っていた。 仕事は頑張りたい。趣味も充実させたい。 だけど、恋愛に必死な大人にはなりたいとは思えない。 人と真正面から向き合うのが苦手な臆病な自分。 それには気付いていた。 本当の自分を見せたくなくて、何かが壊れてしまいそうで。 ずっと閉じ込めてきた。 その蓋を開ける勇気が持てずにいて、今まで見てみないふりをしてきた。 けれどあの日、彼に逢ったその日から。 目まぐるしく変わっていく自分の心境。 気が付けば「変わりたい」と自ら望んでいた。 ―――今はまだ、移りゆく心の成長は訪れていない。 それに彼女自身が気付くのは少し先の話。
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