もうひとりの営業マン。

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皆急かされるように座れば、各自好みの飲み物を手に取り乾杯の挨拶だ。 「えー、北川瀬名さん、滝本涼君、これからも宜しくお願いします。 それでは今後の皆さんのご活躍と我が社の発展を祈りまして…」 「お前社長みたいなこと言うな」 「星也クン、ヒドイ!元からポジション的には社長のはずですけど!?」 星也の茶々に、何故か保志沢はオネェ口調で返すものだから笑い声が上がる。 「カンパーイ!!」 賑やかな掛け声と共に、東屋は和気藹々とした雰囲気に包まれた。 「そういえば涼君、瀬名ちゃんと結構楽しげに話してたねー」 やや緊張気味の涼を気遣いあやのが話し掛ける。 だが年下相手にお酒も入って大胆になっているのだろう、あやのは涼に単刀直入に尋ねた。 「口説いてた?」 「……なっ、ゴホッゴホッ。 違いますよ!!普通の世間話ですって!!」 突然の質問に動揺する涼は、口に含んだお酒にむせそうになってしまう。 瀬名は保志沢と談笑していて、あやの達の会話は聞こえていないようだ。 からかうと面白いかもこの子、と年下の新入社員に好奇心が湧いたあやのは再び質問を浴びせた。 「彼女は?」 「…今はいないです」 「今は?最近まではいたの?」 「…いえ、前の仕事はずっと仕事に追われててそういうのは…」 「そっかそっかー。そうだよね、それで瀬名ちゃんをね。若いし可愛いしね」 「だ、だからただの世間話っ…あ、皆さんおいくつなんですか?」 まるで尋問のようなあやのの攻撃に耐えかねて涼は切り返した。 「知りたい?」 「あ、ハイ…たぶん…」 「マスターは30、星也君は二つ下、私はさらに二つ下。 瀬名ちゃんは三ケ月前に成人式を迎えたよ」 (ってことは、ハタチ?!高校生にも見える…。 そういえばさっき専門学校って言ってたな) 下手に驚くとまたからかわれそうな気がして、涼は冷静に相槌を打った。 だがその甲斐もなくあやのは茶化す。
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