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「瀬名ちゃん、どうしたの?」
「あやのさん…!」
第三者の存在に気付き、二人組の片割れが瀬名の腕をふと離した。
その隙にあやのは、瀬名をさりげなく自分の背中に隠す。
金髪、赤い髪に共にピアスと腰パン。
『ガラが悪い』という形容詞そのものの風貌だ。
容姿から察するに高校生のようだが、二人組の顔は紅潮し酷くお酒の臭いがする。
未成年にも関わらず公共の場で堂々の飲酒らしい。
酔っているかもしれない若い男相手に食って掛かったら、運が悪ければ事件に巻き込まれてしまう可能性だってある。
こういう状況では至って大人な対応が必要だ。
手始めに、二人組を挑発しないようあやのは軽く声を掛けた。
「…何かあったの…?」
「あ?誰?」
「なに、オネーサンも行きてぇの?カラオケ」
(…ナンパ?)
「いや、会社で来てるし皆待ってるから。ごめんね」
「いいじゃん抜けちゃえば。つかカラオケやだったら、どっか呑めるとこでもいっけど」
「マジで?どこにする?あ、前行った駅裏のトコよくね?」
「ばっか、オメー、ラブホの真ん前じゃねーか。エロ丸出しすぎ」
承諾もしていないのに、二人組はゲラゲラと下品に笑い勝手に盛り上がっている。
「悪いけど行けないよ」
「何で?用事あんの?いいじゃん」
「そうそう、俺らといる方がマジ楽しいって!」
まるで会話にならない。
瀬名もきっと必死に拒否したに違いない。
その都度上手くかわされて断れなかったのだろう。
大人な対応を心掛けたものの、どうも彼等相手には通用しないようだ。
ここは逃げた方が手っ取り早いかもしれないと、あやのは考えを巡らせる。
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