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長身の保志沢は、二人組の真正面に立つと無言で見下ろした。
飄々たる風貌と僅かに笑みを浮かべるその表情からは、彼が何を考えているのか窺い知る事が出来ない。
あまりに潔い保志沢の行動に、涼はただ傍観するしか術がない。
「おっさん、何か用?」
「邪魔しないでほしいんだけど」
黙する保志沢からの冷ややかな視線にも構わず、二人組は口々に突っかかる。
「オイ、聞いてんのかよ!?」
「…何だコイツ。急に出てきといて何も喋んねーし。意味わかんねぇ」
目の前の長身を押し退けて、二人はあやのの元へ近付こうとする。
が、再び保志沢の体が行く手を阻んだ。
「王子様登場ってかぁ?じゃあいいや。このコだけで」
片割れが瀬名の肩を抱こうと腕を伸ばすが、保志沢が手首を掴んで遮った。
そしてようやく口を開く。
にっこりと、微笑んで。
「あのさ、俺の大事な人と、その愛の結晶に気安く触らないでもらえるかな」
(――――――……??)
瀬名も、あやのも、一歩下がって見守っていた涼も、言葉の真意が理解出来ず思わず静止する。
(『俺の大事な人と、その愛の結晶』……?)
彼の立場上、喧嘩でも起こして警察沙汰になってしまえば仕事に支障を来す。
そこでこの場を穏便に解決させる為に、彼なりに思い付いた嘘なのだろう。
この状況下、バランスからして『大事な人』とはあやのを指すと推測される。
勿論、夫婦という事実は無いが。
ではともすれば『その愛の結晶』を意味するのは―――。
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