それはある日、突然に。

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「仕事抜きで君と話がしたい。 一目惚れなんだ」 そう言って彼女を熱く見つめたのはスーツを纏った男性営業マン。 これは新手の営業方法なんだろうか。 初対面で、それも告白の場所は自宅の玄関先。 突飛な告白に彼女の思考は停止し、ようやく解けるも素直に解釈する事が出来ない。 思えば、開けてしまった扉はいわゆる“運命の扉”だったのかもしれない。 *** 桜咲く暖かな季節。 社会人となったばかりの 北川 瀬名(きたがわ せな)は、とある会社の一室にいた。 有限会社 stellar(ステラ)――主に中小企業のwebサイトや広告制作を手掛ける小さなデザイン会社だ。 愛知県は名古屋よりも東側、県内では三、四番目の規模を誇るとある市の県道沿いに位置する。 瀬名は以前からこの会社にアルバイトとして勤務しており、週二回の決まった曜日に、ある通販専門の雑貨屋サイトの更新を任されていた。 頻繁な情報更新と多量の画像加工を堅実にこなす仕事ぶりが評価され、デザイン系専門学校を卒業した今は正社員として働き始めている。 とはいっても、正式に勤務し始めてから今日でまだ三日。 正社員になったからといって、すぐに新人が大きな仕事を任されることはなく、以前と同じように雑貨屋サイトの更新作業に取り掛かっていたところであった。 ふと壁掛けの時計に目をやると、針は間もなく正午を指している。 いつも傍らに置いているマグカップの中のミルクティーも気が付けば底をついていた。 (どうりでお腹の音がさっきから…) 納得したところで後方から声が投げられた。
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