それはある日、突然に。

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「うーん、何かってほどでもないんだけど。なかなかクライアントからOK出なくて」 「あやのさん、この間プレゼン行ったとこのですよね?」 「うん。プレゼンの時とイメージが違うってクレームがあって…。 私的には変えたつもりないんだけど、結局デザイン案が上手く伝わってなかったって事なんだよね。 だから今、どうしたら向こうに近づけられるか試行錯誤してるとこ」 嘆いたあやのは、お弁当の中身を口いっぱい頬張りながらお茶を一気に流し込む。 (…そういう事もあるんだ、デザイナーって大変だな) まだあやののような経験は無い、見習いの瀬名は胸中で呟いた。 あやのは瀬名にとって憧れの存在だ。 持ち前のデザインセンスは勿論、仕事の正確さやコミュニケーションスキルが高い点で内外問わず評判がいい。 白い肌で背も高くスタイルも良い。 肩より少し上のふわふわと緩やかなパーマが印象的だ。 一方の瀬名は痩せ型で、傍目に女性らしいとは評価し難いボディライン。 唯一の自慢は、胸元まで伸びた漆黒のストレートヘアーだが、小柄で童顔なせいか、彼女なりに化粧はするものの二十歳にも関わらず高校生に見えてしまう幼さである。 内面的にも外見的にも、瀬名はあやののような大人の女性にほのかな羨望を抱いていた。 「たっだいまー」 事務所のドアの鍵が開く音と共に溌剌な男性の声が届いた。 「はー、疲れたぁ」 子供のような愚痴を零しながら休憩室にやって来たのは、事務所のリーダーである社長だ。
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