それはある日、突然に。

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脳裏をよぎったのは、今日は大好きなアニメのDVDの発売日。 しかもコンプリートボックス。 明日土曜は休日だから、今日の仕事帰りに買って徹夜で観る予定だ。 もちろん予約済み。萌え必至間違いない。 けれど自分がオタクであることをひた隠しにしている瀬名は、その事を思い出したとは到底言えなかった。 おそらく歓迎会は夜の六時か七時くらいからだろう。 結構な話数を観ても寝る時間はとれそうだ。 「予定あった?」 「何もないです。大丈夫です。歓迎会行きますっ」 「良かった。 瀬名ちゃんの正社員昇進祝いも兼ねてるからさ。主役がいなくちゃね!」 「…えっ、ありがとうございます!」 今度はウィンク無しで微笑む保志沢の発言に、瀬名は驚いてすぐにお辞儀をした。 (今の自分がいるのは、雇ってくれたマスターと、応援してくれた皆のお陰なのに…昇進祝いだなんて…) 嬉しい。胸が熱くなる。 「よし、明日のこと考えたらテンション上がってきた!午後から頑張るぞ!」 あやのが両手の握りこぶしを拳げる。 「その意気その意気! 店の予約はしておくから時間決まったらメールするよ。 明日は経費だから腹ペコにしておいてね」 「あはは、朝から抜いておきまーす」 保志沢とあやのの談笑が始まる。 瀬名もつられて笑顔が浮かぶ。 和やかな一時だ。 ―――仕事は楽しい。 もちろん落ち込んだり苛々したりすることはある。 いつもスムーズにいく訳じゃない。 パソコン相手の仕事とはいえその向こう側にいるのは人間だから。 でもそれだって人生の勉強だ。 それに頼もしい仲間がいて支えてくれる。立ち上がらせてくれる。 こんな素敵な環境であることに感謝する。 自分も甘えてばかりじゃなく、いつか誰かの大きな支えになれる日が来るのだろうか。
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