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「いや、ホント無理ですって。人を…しかも王子と王女の護衛なんて」
幾らファンタジーあるあるでもこれはキツイ。俺は人の命を預かるなどしていい度胸も経験も無いのだから。
しかしそんな俺の訴えはマスターには届かない。
「言っただろう。決定事項だと」
「しかし…」
「マスターたる私の決定だと……聞こえないのか?」
小さくてもマスターはやはりマスター。睨みと迫力に圧され口から言葉が出てこない。まさか幼女に臆するなんて…不覚っ。
「……実際の話、このランクの任務の補佐を任せられる者が、他の任務で居ないために貴様に白羽の矢が立ったのだ」
マスターはそう苦虫を噛んだ様に言う。
何だ、ちゃんとした理由はあったのか。俺を困らせたいだけかと思ったよ。
色々なクエストを見てわかったが、ものによってはそれこそ数ヶ月掛かるものもあるから、今このクエストに行ける人が居ないってことっすな。
「けどやっぱり……」
そんな重要なクエストは俺には重荷だ。これはゲームじゃないんだからリタイアしてもう一回なんて出来ないんだから。
しかしマスターは俺が適任なのだと言ってくる。
「…今回の補佐に必要なのは実力、それだけだ。もうすぐ来る筈だが…この任務の受注者は隠密が主なのだ」
「……それで?」
「この任務は暗殺阻止が目的なのだ。そのために奴が万が一裏で仕留めきれなかった時、貴様が表で常に護衛する二段構えで対応することが必要なのだ」
暗殺とは…物騒なことで。
「だから貴様にはアイリスの騎士団と協力し、ギルドの強者がいると敢えて敵に教え、動きにくくさせるのが貴様の主な役割となる」
俺に目を向けてる間にもう一人が敵を始末するってことか。
「…ってことは俺、囮ってことですか?」
「そうだ。だから敵が強行手段に出てきたときのためにそれを対処できる実力を持った奴が必要なのだ」
何それ……先に邪魔な俺が襲われるのが目に浮かぶんですけど……勿論、性的な意味ではないぞ。
「兎に角…アイツが来るまで少しここで待て」
そう言うとマスターは机へと姿を消し、印を押す音が部屋に響き始めた。
俺は暇になったので、床に座り、店長さんに教わり日課となりつつある初級魔法の練習を始めた。
意識を高め指先へと魔力を集中させ、卓球ほどの氷を魔法で作り、それを作っては食べ作っては食べて時間を潰していった。
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