フローヴァルのち馬車

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物置部屋からマイルームへと華麗にビフォーアフターした部屋で荷物をリュックに詰める。 そして1階に戻ると店長さんが調理をしながらこちらを見ずに声を掛けてきた。 「行くのか?」 「…やっぱり聞いてたんですね」 「ああ、スフィアからさっきな。何、お前なら大丈夫だ。気張ってこい」 「はい。あとフーとミーシャが帰ってきたら宜しく言っといてください」 「おお、任しておけ」 店長さんは快く了解してくれた。これで心配事は消えたな。 今フーは拠点が出来たからか、急に朝食の席で探検に行くと言い出しもう丸一日以上帰ってきていない。 何処にいるんだかわからないが目的地はあったようだしフーなら大丈夫だろう。 ミーシャは昨日の昼から何処かに行ってしまっている。店長さん曰く「よくあることだ」だと。 やっぱ猫の血が流れているんだなぁと沁々思ったね。 「では」 店長さんにも敬礼し、フロアに行くと又も声を掛けられる。 「おや?そんなに荷物を持って旅行かい?」 聞き慣れた穏やかな声に振り向きながら答える。 「いえ、クエストに行くんです」 「ハッハ、いつも大変だね君は。頑張ってくるのだよ」 この人は毎日同じ時間に天心に来る常連のおじさんである。 何でも店長さんの昔からの知り合いらしいがそれ以外は知らない。 「ありがとうございます。では行ってきます」 他の家族連れのお客さんにも応援してもらい扉を開け外に出る。 そして何事もなく検問所まで向かうと門の先には既に馬車がいた。 「やべ、早く行かないと」 俺は駆け足で向かい馬車の荷台に乗り込んだ。 「…遅い」 「いやまったくだ。女性二人を待たせるとは何事だ」 「あ…と、すいません…って何でお前までいるんだよ!?」 ミストさんの隣で金魚の模様がある藍色の着物を着た千夜がさも当たり前のようにふんぞり返っている。 「ん?言っただろう。私も同行するとな」 なんて奴だ…本気で言ってたのかよ。 「…ああそうか、俺の代わりってことだな。じゃあ俺は帰って良いってことだな。そんじゃバイバイ」 「こらこら、途中放棄は感心しないな」 千夜が襟を掴み降りようとした俺を引き戻す。 どうすっかな… 「…じゃあお前帰れよ。お前の場所無ぇから」 しっしっとジェスチャーをすると何故か奴はニヤニヤし始めた。 やっぱこいつ理解不能。
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