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「護衛の任務か…私はあまり得意ではないな」
「じゃあ帰ってください」
「しかし久しくお城へは行ってなかったな…いやぁ、楽しみだ」
「聞いちゃいない」
結局のところ奴はついてきてしまっている。
ミストさんがその旨をマスターに伝達魔法とやらで報告したところ「邪魔をしなければ別に良い。千夜は弱くはないからな。着いてこようがこまいがそれは本人の責任だ。好きにさせておけ」だと。
連れてくこと事態が邪魔になるとは思わなかったのだろうか。
「んー、そうだ戸神、腕相撲をしよう」
独り言に飽きたのか千夜が右肘を床に着けそう言ってきた。
「え、嫌です」
「そうか、左の方が良かったか。よしこれで良いだろう。始めようか」
俺は一言もそんなことは言っていない。
「さあさあさあ」
千夜が足をばたつかせながら急かしてくる。
「…まあいいや。やっても良いが条件がある。俺が勝ったらもう俺を追い回すの禁止。それで良いならやってやる」
「ほぅ、それでは私が勝ったら一対一の真剣勝負をしてもらうぞ」
「うしっ、交渉成立な」
千夜には悪いがガチで勝ちにいくぞ俺は。
腕捲りをし肘を着け千夜と相対する。
「魔力強化はありか?」
「いや、無しにしよう」
うはっ、勝ちゲーだろこれ。俺はまだ魔力を常時巧くは扱えないからな。
「悪いが女の子でも本気でやるからな」
「ふふ、本望だ。ここで噂の真相を確めようではないか」
二人とも手を組むとミストさんが手を翳しスタートの合図をする。
「…レディ…………」
勝負は一瞬。千夜は近接タイプだしあの異常な持久力と粘り強さだ。長引かせないのが得策だ。
ふと千夜の顔をみると子供のようにウキウキしてるのが見てとれる。
純粋に勝負事が好きなんだろうな。だからこそ手加減なんてしない。一気に決める。
そして荷台に春の爽やかな風が流れ込むと同時に暇潰しの、だけど真剣な闘いの火蓋が切って落とされる。
「……ゴー」
左腕に全神経を集中させ力任せに千夜の腕を床へと抵抗させる間を与えずに叩きつける。
「オラァッ!!」
「きゃあっ!?」
地震のような揺れが馬車全体を襲う。
突如として起こった激しい揺れで馬車は急停止し、加えて千夜の手の辺りの床が抜けていた。
反省はしている。後悔もしている。
そして俺は逃げるように膝に顔を埋めた。
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