馬車のち城

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ヒョイと部屋の中に入り椅子に腰をかけると彼女の雰囲気が一転し、空気がシリアスな流れになった……気がする。俺も真剣に聞かねば。 「…ふざけた顔をしないで。…真面目な話なのだから」 「えっ、そんなつもりは……」 「…お願いだから」 可能な限りの真剣な表情を作ったつもりなのに……うっぐ、心が折れそうだ。 「…今から言うことは全て真実。…だから静かに聞いてほしい」 そう言いながらミストさんはフードに手をかけそれをゆっくりと脱いだ。 会ってから人前では一時も脱ぐことの無かったフードを。 そんな予想外の行動に声が出ないなか、更なる驚きが俺を襲った。その明らかになった彼女の素顔は見間違おうことなど有り得ないものであった。 一瞬、思考が停止し、出てきた言葉は彼女の名だけだった。 「……ミーシャ」 ただただ呆然とする俺に彼女は語りかけてくる。 「…驚くのも無理はない。…けれど私はミーシャであってミーシャではない」 「じ、じゃあ一体……」 見慣れた黒髪に猫耳、ただ違うのは瞳の色。ミーシャは黒だが今、目の前にいるミーシャは左の瞳だけ白と黒が逆転している。 「…神様と会ったとき、貴方とは会っている」 神様を知っている!?けどあの時、他には誰も……まさか…… 「リン……さん……ですか?」 「…そう。…正確に言えばミーシャという器にリンという器が混じり会った存在」 地デジカの要素皆無……じゃない馬鹿。えっと、落ち着け俺。理解するんだ。 「…困惑するのも仕方ない。…私は今、こうなった経緯を説明しに来た。…それが彼女の願いでもある」 「彼女って……ミーシャは今どうしているんですか?」 「…彼女の意識は今は眠っている」 「一体何で……」 「…それを説明しに来た。…今からその時の彼女の記憶を君に見せる。…一つ、約束を守れる?」 「約束とは……?」 「…彼女の過去を知ってもこれからも変わらず彼女と接していくこと。…今から見せるのは彼女にとって最も忌まわしき記憶だから」 ミーシャの過去、両親の死よりも悲惨なものがあるのか…… 「…多分、大丈夫です」 頼りない俺の答えに何故かリンさんはフッと笑った。 「…正直な答え。…君なら大丈夫か。…それじゃあ見せよう『リストア・メモリー』」 その言葉でリンさんの左の瞳が光を放ち俺の意識を誘っていった。 ―――――――
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