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『やれやれ、ばれちまっちゃあしょうがねぇな」
震えて逃げられないミーシャの前方の地面が水の様に波打ち、地に隠れていた異形がゆっくりと浮かび上がってきた。
不規則に尖った黒髪に真っ黒な服、姿形は人間だが背からは漆黒の翼を生やし、金色の目に額には自由に動き回る第三の真っ赤な瞳。
まさしく魔族であった。
「やっとこさ餓鬼を消化し終えたってのに……人間でいう年貢の納め時ってかぁ、いいぜ、てめぇも道連れ…に……?」
魔族は額に手を当て嘆くように喋りながらも諦めた様子はなく、勢い良く手を横に振り、いざ眼前の敵を見れば震え上がっている獣人族の娘がいるだけだった。
「……おい人間、お前一人だってぇのか?」
「あ……ぁ……」
「……おいおい、本当にそうだってぇのかよ。俺様がこんな小娘にばれたってか?笑えねぇなぁ……おい、そう思わねぇかっ!!」
「ひっ……」
魔族の怒声に震え上がるミーシャ。彼女はもう駄目であった。本能的に相手との力量差を理解してしまっていたのだ。
「だが、しかしだ……」
そこで魔族は芝居ぶったような動きをしながら歩き、口角を釣り上げ不敵に笑う。
「俺様を見つけるからには並じゃねぇ実力者だと柄にもなく諦めかけたが……ハァッハッハ、悪運が強いってやつだなこりゃあ」
声をあげて笑う魔族。そして次の瞬間にはミーシャの背後に立ち肩に手を置き喋りかける。
「そうは思わねぇか?」
「あ……ああぁあぁあぁぁあぁあああぁああぁああああぁぁっ」
気が狂ったようにミーシャは後ろの敵に向けてあらんばかりの魔力を使い炎を放った。
「ぬ、うおおぉぉっ!?」
巨大な火柱に包まれ驚きの声をあげ、魔族の姿は掻き消えていった。
(や、やったの……?)
恐る恐る目を開け、燃え盛る火炎を見つめるが、背後からかけられた言葉にミーシャは絶望の淵へと沈む。
「なんてな」
ゆっくりと後ろを向くと無傷でミーシャを嘲笑う魔族の姿があった。
「そんなんで俺様が死ぬかよ。ま、あの餓鬼を喰ってなかったら危なかったかも知れねぇがな」
「…………」
この時、ミーシャは既に分かっていた。自分が捜しにきた少年は魔族の手に掛かったこと、そしてこの魔族にはどう足掻いても勝てないことも、自分がもうすぐ殺されるということも。
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