馬車のち城

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ゆっくりと近づいてくる死の足音。自分の最大級の魔法は傷すら与えられなかった。最早対抗する術もない。 だがミーシャは大人しく殺されるつもりはなかった。無様でもいい、情けなくてもいい、最後まで足掻き続けると。 そんな自分がすべきことは全力で逃げることしかない。だが足は何かに縛り付けられたように全く言うことを聞かない。 (ねぇ……動いて……動いてよ!!…あたしはまだ死ねない……死にたくないっ!!) ミーシャが己を叱咤激励するなか、魔族は笑いを止め、ミーシャから目を反らし街の方を見て舌打ちをする。 「いかんな、やはり勘づかれたか」 その言葉にミーシャは意識を街に向ける。すると此方に向かう幾つかの強力な魔力の反応を感じ取れ、そして、目を凝らせば豆粒程の大きさだが人の姿が見てとれた。 そしてミーシャは気づく。自分がよく知る魔力の存在を。 「ミィィィーーーシャァァァーーーー!!」 地が震え、木霊する叫びにミーシャは思わず口を手で抑え涙を流していた。 「お、叔父さん……」 後続を置き去りにする速さで向かってくる叔父に気づけば手を伸ばしていた。 一筋の希望の光が彼女を照らそうとしていた。 だがその光は掻き消されることとなる。 「マスタークラスが三人だと……迅速な対応ってやつか。……笑えねぇ、逃げるか」 そう言いながら魔族はミーシャへと近づいていく。 「てめぇもな」 「い、いや、来ないで」 「うっせぇよ」 魔族は怒気の籠った声を出し、ミーシャの首を掴み軽々と持ち上げる。 「貴ぃ様ぁぁぁぁーーー!!」 「はっ、じゃあな人間ども。恨むなら俺様の存在に気づけなかったお前たちの無力を恨め」 そう言うと、魔族が足下から消え始めた。 「ミィィーシャァァーー!!」 「お…じ…さん……」 苦しさに顔を歪めながらも手を伸ばすミーシャ。その体はもう半分以上消えていた。 「あばよ」 そう言い、魔族とミーシャの姿は完全に消え去った。 あとほんの数メートルだった。叔父が必死に伸ばした手は空を切り、何も掴むことはできなかった。 そして彼は膝から崩れ落ちていく。 「俺は……また守れなかった……。妹夫婦も……そしてあいつらの娘を……守ると決めた大切な……大切な姪さえも…………畜生ぉ……畜生ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーー!!」 乾いた地面に吸い込まれていく涙。男の咆哮は空に虚しく響き渡るだけだった。
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